高校留学のコスト削減

かつて中国の東北部(旧満洲)に、長野県の分村作りを進めた経験を思い起こす人もいる。
英語を話す県民の数が増えることだ、と考える人もいる。
全国の自治体で取り組んでいる国際化や国際交流が、姉妹都市作りには熱心であっても、戸籍制度や外国人登録のような国家の仕事を自治体が引き受ける機関委任事務を改めようとしないのなら、内実を失うであろう。
その自治体に滞在する外国人に出会う最初の場面が、住民課で指紋をとる仕事というような情けない国際化は、一日も早く終わりにしたいものである。
長野県を具体例にとると、私の考える長野県の国際化は、駒ヶ根市にある海外青年協力隊の経験を、活用することである。
駒ヶ根などの訓練所で学んだ二〇〇〇名をこえる若者がアジア、アフリカおよびラテンアメリカで暮らし、それぞれの地域の民衆とともに、共同の課題に取り組み助けあっている。
駒ヶ根の町が、世界の中心にあって、第三世界の次代を担うひととつながっている。
そう考えるだけでも楽しい。
日本社会には珍しく女性隊員が多数派であることも、未来への展望を明るくしてくれる。
長野県における国際交流の震源地にもなってほしい。
個人的な事情を話せば、喉頭癌の手術で声帯を失ったあと、初めて人前で講演した会場である。
そのあと駒ヶ根から追いかけてきた手紙は、再手術を待つ病室の私に、生きる勇気を与えてくれた。
しかし国際化の中心である駒ヶ根も、私の住む京都から訪ねると、東京へ行くより遠い。
名古屋から中央高速道路の路線バスで約三時間かかって駒ヶ根市に着く。
青年海外協力隊は、駒ヶ根サービスーエリアに隣接している。
でも、そこにはバスの停留所がなく、高速道路を降りてから、また戻らなければならない。
高速道路は、遠隔地の人びとを近づけるとともに、近隣の人びとを遠ざける。
自家用車を持たない私のような者には、不便なことも多い。
[個々人に固有の交通手段で住民相互が交流する」という地域自立の原則に立つと、域内交通と域外交通網との接点をつくるには、工夫を要する。
「国際社会のなかの日本」というテーマで私か引き受けていた講義は、午後三時一〇分からの予定だった。
名古屋発のバスは二時間に一本しかない。
その朝、ブレンダさんの退院手続きのため、病院へ行った。
彼女が入院中の分院と、事務長のいる本部を往復しているうちにバスに乗り遅れ、タクシーで駒ヶ根まで行くはめになった。
環境に負担の少ない生き方をめざす若者たちに、申しわけなく思う。
会場に駆けつけた私に、前日までの討論の結果として、二項目の質問事項が待っていた。
とりわけ、『開発と環境とは両立するか』という質問は、重かった。
人間の営みを「永続可能な発展」ととらえるならば、両立する範囲の経済活動がありうる。
しかし、その範囲を明示しないかぎり、若者たちは納得しないだろう。
宿題の残った一日でもある。
日本の国際協力のなかで、広く国民に公開され、自発的参加が保証されている唯一の事業が、海外青年協力隊である。
ODAに占める金額は少ないが(約一%)、第三世界諸国の現地に出かけ、人びととともに暮らし、悩み、学んで来る若者の存在は貴重である。
国際結婚をする隊員も少なくない。
アフリカ、ラテンアメリカの各地に、生涯にわたる親友を持つ帰国隊員は、もっと多い。
彼らの苦労が、援助を必要とする民衆と、国際協力事業との通路を開く原動力になってほしい。
それ以上に、組織を離れてボランティアとして生きる若者の体験が、会社中心主義の日本社会を変革するかけがえのない触媒になってほしい。
東京に行くと、アジア文化会館か国際文化会館のどちらかに泊まる。
国際文化会館が欧米知識人との交流に積極的であるのに対して、アジア文化会館は、同じアジア人との連帯にこだわる。
国際文化会館を創立したMも、中国文化を重視していたが、全世界的な規模での知的交流に努力した。
しかし、現実には欧米人との交流が大きな比重を占める。
日本近代の知識人が「脱亜入欧」を志した主要な潮流である。
『脱亜論』から1〇〇年を経た今日でも、知的な営みでは西洋志向が優越している。
反体制のマルクス主義も、欧米からの輸入思想として知識人の支持を集めた。
大学教師の圧倒的多数が欧米に留学し、多数の留学生をアジア諸地域から招く知的状況は、少数の例外を除いて戦前も戦後も変わらない。
西洋近代から学び、後進アジアに教える姿勢が「脱亜」の本質である。
日本近代には、「脱亜」の主流だけではなく、細々ながら「興亜」の地下水脈も流れている。
ときには間欠泉のように、伏流水が地表にほとばしり出ることもある。
しかし、多くの「興亜」の試みは、あまりにも強すぎる「脱亜」志向への反発であったり、西洋近代が優越していることに対抗する劣等意識の結集点であったり、アジア支配を偽装するためのイデオロギーであったりした。
西洋近代の優越性か失われれば、それと同時に姿を消しかねない運動である。
アジア文化会館を創立したHは、珍しく徹底したアジア主義者であった。
西洋近代という敵役がなければ存続できないような、反動としての興亜主義者ではない。
戦前も戦後も、アジアの諸民族と平等な協力関係を作ろうという、五族協和を真正直に信じて生き抜いた人である。
日本が欧米の支配からアジアを解放すると主張するならば。
何よりもまず朝鮮民族の解放が必要だと主張して、朝鮮独立運動に身を挺し、戦前に二度も検挙されている。
戦後は、アジア‐アフリカから二万人をこえる留学生と研修生とを受け入れ、その生活と人権の擁護に力をつくした。
Mと同じように、東京帝国大学法学部を卒業しながら、生涯にわたって一度も就職しなかった。
経済的には妻の被扶養者として家庭を守り、ボランティア活動に余力を傾注した。
アメリカ留学が長く、世界のリーダーたちときらびやかな交際を続けたMとは、対照的な生涯だった。
増築や改装を重ね、充実した図書館をもち、多様な学術交流を展開している国際文化会館に比べて、アジア文化会館の建物は老朽化しているが、改築の見通しは立っていない。
一九九二年四月一一日に、東京でひらかれた「ODA・PKO・国際貢献を考える」というシンポジウムに参加し、タイ東南部臨海工業地帯の環境問題に取り組んでいるターラーさんに再会した。
その夜はアジア文化会館に宿泊した。
翌日、駒込駅の近くで、数十名のミャンマー人集団が、上座部仏教の新年を祝う水かけまつり「ソンクラーソ祭」の会場を探していた。
アジア文化会館で日本語を教えているFさんの案内で、会場の聖学院高校へ行って驚いた。
タイ人に加え、若干のラオス人とミャンマー人とでごったがえしている。
主催者の話では、用意した1000円の入場券四三〇〇枚が売り切れたのに、入場者が絶えないそうである。
これほど多くのタイ人が集まるとは想像もできなかった。
トムヤムクンを始め、おいしいタイ料理を満喫した。
仏暦二五三五年のソソクラーンは、新たな『興亜』の時代を予測させる光景である。
「中央集権的な日本社会で、こんなすばらしい自治体が存在してもいいのだろうか」岩手県沢内村を訪ねた友人は、口ぐちにいう。
四メートルもの積雪がある特別豪雪地帯に、この村は位置している。
四〇年前には、住民の一割以上が生活保護を受け、乳児死亡率がもっとも高い無医村だった。

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